ランニングにおける解析例

ランニングにおける解析例

概要

 

本事例では、床反力を測定せずに、“ランニング”のような複雑な高速の動作をAnyBody Modeling Systemで解析することを目的とします。またランニング経験の異なる被験者の動作を解析し、筋肉の使い方・代謝エネルギーなどの結果で、どこまで差が表れるかを確認します。

 

 

① ランニング動作の定義

速度10km/h(6:00/km)、裸足で傾きなしのトレッドミル上を走る動作を測定します。動作は安定するために、20秒間取得し、その中の10秒をサンプルとして使用し、解析をおこないます。

② 測定条件

測定器として、光学式モーションキャプチャシステム(Vicon)を使用し、200フレーム/秒で取得します。動作と体型はAnyBodyで再現するので、正確な測定を心がけました。

③ 被験者

被験者3人の動作を取得しました。またランニング経験を評価するために、各被験者をヒアリングして、右表を用いて判断しました。以下に被験者のデータを記載します。

被験者1  
 男性・164cm・60kg 健常  
 経験:LEVEL0(No exercise)

被験者2  
 男性・165cm・60kg 健常  
 経験:LEVEL3(Occasional, light exercise)

被験者3  
 男性・169cm・68kg 健常であるが右半月板断裂
 経験:LEVEL6(Regular exercise and training)

④ AnyBodyでのモデル化の概要

取得したランニング動作のモーションキャプチャデータは、AnyBodyに取り込みます。AnyBodyは、人体モデルが取り込まれた動作を模倣できるように最適な骨の長さと関節の角度を計算し、動作と体型を再現します。

ランニングの様な動作を取得する際には、床反力計による実測データ取得が望ましいですが、床反力のデータがなくともAnyBodyの床反力を推定する機能を用いて床反力を考慮することが可能です。今回はこの機能を使用します。

⑤ 結果 動作

このアニメーションでは、比較のため被験者を並ばせて、AnyBodyで解析する動作をリアルタイムで示しています。走り方・動きの安定性・体幹の傾き・質量中心の上下移動などの調査項目を比較しながら確認できます。例えば、被験者1(LEVEL0)の方が前傾で走っているように見えます。

⑥ 結果 筋肉の使い方・活動量

このアニメーションでは、比較のため被験者を並ばせて、それぞれの1つの動作サイクル(スローモーション)を示しています。

AnyBodyが計算した筋肉の活動量を可視化する方法として、青は活動の無い状態を示し、青⇒赤⇒ピンク(オーバーロード)と変化するにしたがい、筋活動が高くなることを示しています。
また、AnyBodyが推定した床反力のベクトル(足から生じる赤い線)と作用点(圧力中心)を表示しています。

被験者全員は、各ランニングフェーズ(着地、ミッドスタンス、トーオフなど)によって、ほぼ同じ筋肉使い方を示しているように見えます。
しかし、筋肉の活動レベル(色)は被験者によって異なりますので、少し細かく確認しましょう。

以下の3動画では、被験者それぞれの動作(10秒)における筋活動レベルとそのスケールをスロー再生で表示しています。 また以下の内容は、AnyBodyが出力した数字から観察したものになります。

■ 被験者1(LEVEL0)

主に、外側広筋(作用:膝伸展)と大腿直筋(作用:膝伸展・股関節屈曲)を用いています。外側広筋が着地時に活動ピークを示し、時間平均でも活動レベルが比較的に高いです。

■ 被験者2(LEVEL3)

主に、大腿直筋(作用:膝伸展・股関節屈曲)と縫工筋(作用:股関節屈曲外転外旋・膝屈曲)を用いていますが、トーオフ時に腓腹筋(作用:足首底屈)が活動ピークを示しています。

■ 被験者3(LEVEL6)

被験者2と同じく大腿直筋と縫工筋を用いていますが、縫工筋がダブルフロート(両足共に地面に接地していない)時にピークを示しています。

⑦ 結果 代謝エネルギー

筋活動量の結果を細かく確認すると、同じ被験者でも、サイクル及び脚(右、左)によって結果が若干異なることが分かります。それに加え、被験者によって体型が異なるため、直接比較するのは困難です。
そのため、走り方の効率性を評価するために、AnyBodyが計算した筋力と筋肉収縮速度を用い、下肢の代謝エネルギーとその体重割り算を算出して比較することを提案します。

以下の3つのグラフは、右脚(青)と左脚(オレンジ)の10秒程度の代謝エネルギー消費を示し、右脚のサイクル番号を記載しています。

 

■ 被験者1(LEVEL0)

13ランニングサイクルを示し、右脚の方が若干エネルギーを消費することが分かります。

■ 被験者2(LEVEL3)

消費エネルギーは、被験者1より少し高い値を示しています。しかしストライド長さが小さく、被験者1と同じ距離を走るために、 16サイクルが必要でした。また被験者1と同じく、右脚の方が少しエネルギーを消費しています。

■ 被験者3(LEVEL6)

14ランニングサイクルを示していますが、他の被験者と逆に、左脚の方がエネルギーを消費する傾向が明確です。理由として、左脚が右脚の半月板損傷を庇っていることが反映されたと考えられます。

■ 被験者の比較

このグラフは、各被験者の代謝エネルギー消費の体重割り算を示しています。被験者1(青線)と被験者2(オレンジ線)は、 10秒後における、体重1キロあたりのエネルギー消費がほぼ等しいことが確認できます。 比較すると、被験者3(緑線)が代謝エネルギー消費が一番小さいことが明確になります。この結果では、被験者3(LEVEL6)の走り方が効率性が良かったと考えられます。

⑧ まとめ

AnyBody Modeling Systemで、床反力を測定しなくても、走り方における筋肉の使い方・活動レベルの可視化及び数字化が可能であることを確認しました。

被験者における筋肉の使い方・走り方の効率性などの差を解析結果から識別でき、ある現象の原因調査も可能だと思われます。
また、膝損傷のある被験者では、無意識のうちに左足で右足をかばってランニングしている可能性があるということを検出できました。

AnyBodyによるランニング動作解析で検証可能なパラメータは無数にあり、今回紹介した方法は一つの例です。 この方法による検証の妥当性を確認するには、ランニングプロファイルの異なる被験者の解析結果を増やす必要があります。

 

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