AnyBodyで計算に使用される人体モデルは、概ね実際の人体の構成を再現していますが、計算にかかる時間やモデル化の難しさ等の理由から簡略化されている部位があります。
例えば、指先のモデル化や膝の関節の構造などです。
これらの課題に対して、記述を追加し、AnyBodyのモデルを変更することで対応することができます。
”膝の解析”のためのAnyBody モデルスクリプトセレクション │ AnyBody 筋骨格モデリングシミュレーション (terrabyte.co.jp)
胸郭も簡略化されている部位の一つです。
現状のデフォルトモデルでは胸郭は一つの剛体要素(セグメント)で作成されており、脊柱の変形や肋骨の動きを再現することができませんでした。
次期バージョンのAnyBodyに導入される予定の胸郭詳細モデルでは胸郭のすべての骨(胸椎/肋骨/胸骨) を分割して作成し、それぞれの間に関節や拘束を設定することで、胸椎の側弯変形をシミュレーションすることが可能になります。
胸郭詳細モデルについては、こちらもご参照ください。
またAnyBodyの開発元(AnyBody Technology)では、胸郭詳細モデルを応用して側弯変形シミュレーションを行った例を公開しております。
Shayestehpour, H., Rasmussen, J., Galibarov, P. et al.
An articulated spine and ribcage kinematic model for simulation of scoliosis deformities.
Multibody Syst Dyn 53, 115–134 (2021).
https://doi.org/10.1007/s11044-021-09787-9
胸郭詳細モデル・・・計38個の剛体(肋骨12×2、頸椎12、胸骨2)
胸椎同士の関節(胸椎間関節)、胸椎-肋骨の関節(肋椎関節, 肋横突関節)は球体関節,
肋骨-胸骨(肋軟骨接合部、胸肋関節)は並進変位の拘束によってモデルや動きは構成されています。
・側弯症モデル例(手動入力)
モデルや設定にもよりますが、胸椎の角度はAnyBodyの他の脊椎(頸椎/腰椎)と同様に1組の関節角度から他の関節角度を算出して適用する方法(脊椎リズム)で設定されています。
各胸椎に任意の値(例えばレントゲンの測定値など)を入力するのであればこのリズムを無効にして、直接角度を設定します。
モデルの赤くピックアップされている腰椎(L5)~胸椎(T1)に対して、モデルが破綻しない範囲で自由に角度を入力することができます。
本ページでは1例として脊椎が”く”の字に屈曲している状態をイメージして、T4T5関節とL3L4関節に20°、T9T10関節に40°の屈曲を与え、解析を行います。 赤矢印が屈曲部位
解析は上記の骨モデルに筋肉を追加したモデルで行います。
解析結果として、腰椎/胸椎の①側屈モーメント、②関節圧縮力と③左右剪断力を確認します。
①側屈モーメント
立位姿勢において変形の無い脊椎であれば、側屈モーメントは発生しません。
しかしながら、側弯変形で重心の位置が変化することによって自重による側屈モーメントが生じるようになります。
姿勢を保つためには胸椎/腰椎に対して、自重による側屈モーメントとつり合う、反対方向で同じ大きさの側屈モーメントが必要になります。
このつり合いを取る側屈モーメントは筋肉の活動によって提供されます(上図はこの筋発揮のモーメントの値になります)。
しかしながら、筋肉の活動が増加することにより、関節に発生する力(関節反力)も増加します。
②関節圧縮力
関節反力のうち、近位-遠位(圧縮-伸展方向)の力成分です。
特に腰椎の圧縮力が上昇していることが確認できます。
関節反力のうち、内-外(右側-左側)の力成分です。
側弯症の影響で腰椎や胸椎に対して、最大で約150N(約15kg)の剪断力(ズレる方向に作用する力)が発生しているのが確認できます。
上記のように胸郭詳細モデルを活用することで、これまでは算出できなかった胸郭内の負担について算出することが可能になります。