一人ひとりの骨の形に合わせた筋骨格解析(モーフィングプロセスツール(Morphing Process Tool)の利用)

一人ひとりの骨の形に合わせた筋骨格解析(モーフィングプロセスツール(Morphing Process Tool)の利用)

AnyBodyでは、解剖学的な「ヒト(human)という個体」での、標本レベルにおける人体各部位の骨の形状はもとより、骨に付着している筋の付着位置(起始・停止と呼びます)、起始・停止間の途中、骨へ巻き付いて走行方向が変わる経由位置などが、忠実にモデリングしてあります。

しかしながら、個々の患者や被験者は、本来それぞれ別個体の固有の存在であり、そして骨形状も誰ひとり「標本通りの規格形状」ではありません。

固有の骨形状、固有の付着位置であるならば、筋骨格解析レベルで生じる力学的挙動もまた、各人固有のものとなります。

一例でいうと下図のように、ほぼ同じ骨長さであっても、前捻角(ピンクの角度)が異なる場合などがそうです。この場合、たとえ身長・体重がほぼ同じ被験者2名が、ほぼ同じ動作を行ったとしても、それぞれ違った筋発揮力、ひいては異なった身体への負荷となる可能性があります。

ここに、「一人ひとりの骨の形に合わせた筋骨格解析」の必要性があります。


AnyBodyの解析システムでは、Anybodyデータベースにある、標準的骨形状・付着位置情報の付随する骨(これをソース(Source)骨と呼びます)をベースにして、 医療用画像から取得した個々の人の持つ骨形状(これをターゲット(Target)骨と呼びます)を用い、ソース骨形状のデータをターゲット骨に合うように形を変形させることができます。 これをモーフィング(Morphing)と呼びます。このように、解析では直接ターゲット骨に差し替えるのではなく、極力ソース骨形状をターゲット骨に寄せる変形操作になります。

なおモーフィングは、事例『 ”膝の解析”のためのAnyBody モデルスクリプトセレクション』(⇒こちら)で紹介している「#2. 膝の最上位のモデル」でも行われている操作となります。

 Anybodyのモーフィング・プロセス・ツールは、一般的に用いられる医療用画像のDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)フォーマット形式で記録された情報などに基づき、作成された患者の骨の形状データを、AnyBodyの筋骨格解析用のモデルへと、スムーズに反映させるツールです。ここでは、DICOMデータから、筋骨格解析までの一連のプロセスと、モーフィングツールでの手順を紹介します。

なお、このツールは、ABSAPが有する機能の一部です。 ABSAPについては ⇒こちら

 

<データの用意>

解析にあたり、まず手元に必要なのは、被験者(患者)一名につき、「骨の形状情報」と「動作情報」です。骨の形状データとしては、 AnyBodyでのモーフィングには,STLファイルフォーマットの形状データが必要です。また動作測定データがマーカデータ(3Dの座標データ)であるならば、マーカ位置から身体各部位のおおよその長さの見積が同時に行えます(これは、通常のAnyBodyで行われる一般的なスケーリングに相当します)。

最終的には、マーカベースのラフなスケールモデルをベースに、当該骨をモーフィング形状に置き換えて解析を実行します。したがって、被験者骨形状データの骨と、ラフなフィッティングでの骨は整合が取れている必要があります。


●DICOMデータから骨形状の表面STLデータの取得

オープンソースの3D Slicer *1)で、SegmentEditorを使うと、DICOMデータから対象骨のSTL形状が容易に抽出出来ます。以降は大腿骨のデータについてです。

*1 )3D Slicerは、画像分析と科学的視覚化のための無料のオープンソースソフトウェアパッケージです。BSDライセンスに基づいています。https://www.slicer.org/commercial-use.html


●動作データの準備

下図は、光学式モーションキャプチャによるC3D形式のマーカデータです。骨のポイントから関節角の運動特定と同時に、関節間距離などから、ラフな筋骨格モデル体型が推定されます。


【モーフィングツールについて】

GUIベースのツールです。一連の作業は主に、赤枠のタブ#1~#7を左から右に行うことで、作業が進行します。

一連の作業が終了後に、AnyBodyによる筋骨格解析用のファイルが生成されます。途中、AnyBody のVisual機能も用いながら、確認作業を進めます。


モーフィングプロセスにおいて生成される最も重要なデータは、『ランドマーク・ペア』です。

『ランドマーク』とは、その骨形状を形づくる情報として、骨表面上でおさえておくべき座標ポイントに当たります。モーフィングの操作のために、もともとAnyBodyが有する骨の表面データSTL(Source)と、被検者(患者)様固有の骨(Target)の表面データSTLとを突き合わせ、Source上の任意の特徴点位置座標と、そのペアになるTarget上の位置の座標を、データセットとして多数用意しておく必要があります。

モーフィング・プロセス・ツールでは、ソース側(AnyBodyのオリジナル) および被験者(ターゲット)の2つのSTLファイル、および、ソース側のランドマーク点があれば、シンプレックス法による最適化手法を用いて、ペアとなるターゲット側のランドマークを自動生成します。


生成後は、ソース側、ターゲット側それぞれにつき、STLおよびランドマークファイルの、計4つのファイルで、以下のように、モーフィングプロセスでの一致度が確認できます。


AnyBody歩行サンプルへの適用例

AnyBodyでは、サンプルファイルとしてユーザ様に歩行のマーカデータC3Dファイルと、それを用いた筋骨格解析用スクリプトを提供しています(下GIFアニメ)。このサンプルを用いて、前述のモーフィング骨を用いた場合の例を以下に示します。

(これまでのDICOM医療データと、本歩行サンプルの被験者は全く別ですが、骨形状の違いが、力学結果に影響する例として掲載します。)

下図のように、通常のラフスケール(OFF)の場合と、被験者骨によるモーフィング(ON)の場合で、股関節反力には、顕著な差が生じることが分かりました。

下図のように、#1と#2のピークの位置で右方向から見ると、赤線で示すように、前捻角の違いにより骨盤ー大腿骨の相対位置関係の差が顕著です。当然、筋の張力方向の違いが生じることになり、ひいては関節トルク、関節間反力に差が出ることがわかります。

※注意:実際の場合には、骨盤ー大腿骨の相対位置関係は股間節周りはOFFに近く、むしろ爪先が内向き(TOE-IN)の状態となる可能性がある。


このように、固有の骨形状を反映することで単なる身長・体重を合わせるスケーリング以上に、より正確な解析が行えることになります。

 

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