非球体粒子のスクリュー搬送解析
1. マスフローとファネルフロー
穀物やペレット、錠剤等、粒子の貯蔵や搬送、供給は様々な分野の製造工程で登場します。その際、粒子が湿潤状態だと粒子同士の凝集力が高くなり、搬送効率が低下してしまう場合があります。粉体圧により粒子が壁面に押し付けられて摩擦が大きくなり、排出口上部の粒子のみ排出されてしまうためです。これをファネルフローと呼び、残留層が形成される等の問題が発生します。一方、全体的に粒子が偏ることなく排出される流れをマスフローと呼びます。
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この様に、粒子の流動性に応じて機器内の粒子の挙動は変化します。流動性評価指標には様々な方法がありますが、実験から求める場合、実粒子を利用して多数の試験を実施する必要があります。一方、シミュレーションソフトを活用すると、仮想的に機器内の粒子の挙動を予測する事ができます。例えばサイロからの排出を考えた場合、ビデオカメラによる撮影が難しい箇所であっても自由に内部の様子を可視化することができます。さらに、排出条件を変更した場合の粒子挙動の変化も簡単に確認できるため、問題解決のツールとして活用することができます。
しかしながら、シミュレーションソフトの中には球体粒子しか扱うことができないソフトも存在します。対象の粒子が非球体の場合、シミュレーション結果を実現象と一致させるためには粒子形状に関連した多数の追加パラメーターの調節が必要となります。排出条件の改善のためにはトルク、粒子の搬送数、Compressive Forceなどを定性的に一致させる必要があるため、パラメータ調節作業が複雑になり、問題解決にシミュレーションソフトを活用する事が難しくなります。
個別要素法もしくは離散要素法(Discrete Element Method)のソルバーであるEDEMは複数の方法で非球体粒子の計算を行うことができます(図2参照)。
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2. モデル概要
本事例では、図3に示す勾配度のサイロ下部にスクリューコンベヤーを配置した搬送機器において、静的安息角が異なる粒子特性で、サイロ内の粒子の挙動の違いを調査しました。その際、非球体粒子だけでなく体積を等しくした球体粒子の計算も行い、粒子形状による違いも比較しました。表1に計算ケースを示します。
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図4に、静的安息角の様子を示します。なお、静的安息角が小さいケースは接触モデルとしてHeltz-Mindlinを、大きいケースはHeltz-Mindlin +JKRで計算しました。表2に粒子形状を示します。
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3. 計算条件
図4に計算条件を示します。スクリューは一定の角速度で回転(=強制運動)させました。
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接触モデルのHeltz-MindlinとHeltz-Mindlin +JKRについて簡単に説明します。
Heltz-Mindlinは非圧縮性の乾燥状態の粒子を対象とした接触モデルです。バネとダッシュポットの構成で接触を考えます。オーバーラップ(=粒子の重なり)が0のとき反発力は0で、オーバーラップが大きいほど反発力は強くなります。
一方、 Heltz-Mindlin +JKRはHeltz-Mindlinに凝集力を追加した接触モデルで、粘着力のある粉体や濡れた材料が対象になります。オーバーラップがマイナス(=粒子が離れている状態)の状態で負の反発力(=凝集力)が発生します。
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4. 計算結果
図5に、各計算ケースの搬送状況のアニメーション(鉛直方向に7色に色分け)を示します。
ケース1-1(球体、凝集なし)
ケース1-2(非球体、凝集なし)
ケース2-1(球体、凝集あり)
ケース2-2(非球体、凝集あり)
図5 各ケースの搬送状況(手前半分を非表示)
・ 凝集力ありのケース2-1と2-2では、最後まで青い粒子が残りファネルフローの傾向がみられました
図6に、各計算ケースの代表時刻における粒子のCompressive Forceを示します。
ケース1-1(球体、凝集なし)
ケース1-2(非球体、凝集なし)
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ケース2-1(球体、凝集あり)
ケース2-2(非球体、凝集あり)
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図6 粒子のCompressible Force(中心断面のスライス表示)
・ 凝集力ありではスクリュー部に粒子のすき間が存在し、凝集力なしでは粒子が充填された状態で搬送されました。
・ 凝集力の有無には関係なく、非球体粒子のケース1-2とケース2-2の方がCompressive Forceは高い結果となりました。
スクリュー搬送機器の根元に円柱型のセンサーを配置し、センサー領域内部の粒子数をカウントしました。
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図7 センサー領域内部の粒子数
・ 凝集力ありではスクリュー部に粒子のすき間が存在したため(図6参照)、凝集力なしに比べ搬送速度が低い結 果となりました。
・ 凝集力なしのケース1-1とケース1-2に大きな差はみられませんでした。
・ 凝集力ありのケース2-1と2-2では粒子形状による差がみられ、非球体のケース2-2では搬送スピードが遅くな る結果となりました。
図8に、スクリューのトルク[N・m]を示します。
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図8 各計算ケースのスクリューのトルク
・ 凝集力ありは、凝集力なしより搬送する粒子数が少ないにもかかわらず(図7参照)、スクリューのトルクは高い結 果となりました。
・ 凝集力なしのケース1-1とケース1-2に大きな差はみられませんでした。
・ 凝集力ありのケース2-1と2-2では粒子形状による差が若干みられ、非球体のケース2-2の方がトルクは高い結果と なりました。
5. まとめ
① EDEMではファネルフロー等、サイロ内の粒子の搬送状況の定性的な再現が可能であるため、適切な 搬送環境の調査に役立てることができます。
② EDEMは様々な形状の非球体粒子の計算が可能です。
③ 乾燥状態等の凝集力がない場合であれば、球体粒子を使って非球体の予測が可能ですが、凝集力があ る場合は、搬送能力やトルク等の実現象を再現するために、形状に関連した追加パラメータの調節作 業が必要となります。このため、球体しか扱うことができないDEMソフトでは、モデル作成に時間 を有してし まいます。
また、他にも、、、、
・ 粒子や機器に作用する力など、様々な結果情報を確認する事もできます
・ 自由に粒子を着色する事ができるため、搬送機器内部の様子を確認する事ができます