ローラによる粒子の圧縮成形
1. DEMの圧縮性と非圧縮性
個別要素法や離散要素法(Discrete Element Method)の計算手法では、離散した粒子や粉体が計算対象になります。
図1 DEMによる粒子計算
一般的なDEMの市販ソルバーでは、粒子衝突の際に行う接触計算の方法としてソフトスフィアモデルを採用しています。粒子は変形せず、粒子間の重なり(overlap)を元に反発力を計算する手法です。
図2 粒子間の接触計算
ここで、移動している粒子同士が瞬間的に衝突するのではなく、粒子が自由に動けず粒子が押しつぶされる状況を考えます。例えば、スクリュー内の粒子搬送や、ローラーによる粒子の圧縮成形(カレンダリング)、3Dプリンターの粒子供給・整地、バッテリーの製造工程などが挙げられます。
図3に粒子を圧縮・除荷した際の高さの実験結果イメージを示します。除荷後のスプリングバックは、粒子特性によって変化します。
図3 粒子高さの実験結果イメージ
実験で同じ高さに戻らない要因は様々ですが、例えば実際の粒子形状は非球体であり、摩擦によって粒子間に存在していた空隙率の変化や、粒子形状の破壊・変形等が挙げられます。
非圧縮性のソルバーで計算すると同じ高さに戻ってしまいますが、圧縮性ソルバーで計算すると、この現象を再現することができます。
以下は、円柱内に粒子を配置し、プレートによる荷重/除荷をおこなったサンプルモデルです。プレートを下方向に移動して粒子に圧縮荷重を与えた後、プレートを上方向に移動して除荷します。非圧縮性ソルバーと圧縮性ソルバーで粒子の高さを比較しました。左が非圧縮性ソルバーで右が圧縮性ソルバーの結果です。
非圧縮性ソルバーによる計算
圧縮性ソルバーによる計算
図4 非圧縮性ソルバーと圧縮性ソルバーの比較
EDEMにはこれらの現象を再現するため、非圧縮性だけでなく、圧縮性ソルバーも組み込まれています。圧縮性-乾燥はHysteretic Spring法で、圧縮性:湿潤はEdinburgh Elasto-Plastic Adhesion(EEPA) 法で計算することができます。
どちらのソルバーも、ソフトスフィアモデルで計算するため、圧縮性を再現する際の土台となる手法は、粒子同士の重なり(overlap)に対する反発力を調節することで再現します。(※ これらの特性は、表面エネルギー等の式中のパラメータで変化します)
図5 各圧縮性ソルバーにおけるoverlapと反発力の関係
2. モデル概要
電極の製造工程には、バインダーや活物質等の複数の粒子材料をローラー等で板状に成形するカレンダリング工程があります。本資料では簡略化したカレンダリング工程を、圧縮性ソルバーで計算した事例を紹介します。粒子は湿潤状態とし、圧縮の前後で、積層した粒子の厚さや空隙率の変化を調査しました。なお、粒子は直径の異なる球体とし、圧縮性のEdinburgh Elasto-Plastic Adhesion(EEPA)法で計算しました。
表1 粒子の直径
図6 粒子のカレンダー加工を簡略化したモデル図
図7に、代表箇所の寸法と計算条件を示します。
図7 計算条件
3. 計算結果
図8と9に、斜め上方向と真横から見た粒子の高さを示します。
図8 斜め上方向から見た粒子高さ
図9 真横から見たローラー近傍の粒子高さ
図10に、粒子内部の空隙率(=空間に対する粒子体積の占める割合)のコンター図を示します。赤い箇所ほど粒子が粗で、青い箇所は密に存在している事を示します。
図10 空隙率のコンター図(視点:真横)
圧縮性ソルバーでは、ローラの前後で粒子の空隙率が変化します。ローラー通過後、空隙率のコンターが赤から緑に変化(=粒子が密になった)しています。
図11に、ローラーによる圧縮後の粒子同士の重なり(overlap)のコンター図を示します。赤い箇所ほど、より粒子同士が重なっていることを示します。
(補足:粒子の同士の重なりのコンター図は、接触経路ともみなせるため、全固体電池等、電極質の性能評価においても重要な指標となります)
図11 粒子同士の重なり(overlap)
4. まとめ
EDEMでは、圧縮性ソルバーでローラーによる粒子の圧縮状況を確認することができます。
粒子の高さだけでなく、空隙率や粒子同士の重なり(overlap)も可視化することができます。このため、成形条件変更による粒子の圧縮状況の変化を確認することができます。