概要
近年、私たちを取り巻く環境が電磁的脅威に晒されているという指摘や、その対策が早急に必要であるという提言があります。電磁的脅威は、雷や太陽フレアによる磁気嵐のような自然現象によるものから、高高度爆発による電磁パルス(EMP : ElectroMagnetic Pulse)の照射など人為的なものがあります。EMPは強力なパルス状の電磁波であり、電子機器を破壊し通信や電力などの重要インフラを使用不能にする可能性があると言われています。
シールドルームA
シールドルームAの解析モデルを図1に示します。これは、厚さ10 cm、比誘電率6.0、導電率0.462 S/mのコンクリートで囲まれた内寸 2×3×2 m3 の直方体のシールドルームです。開口は無く、内部は外部から完全に遮断されています。底面は無限に広いの完全導体であるアースと接しています。シールドルームの上面に金属板を設置した場合と設置しない場合を想定します。
解析結果
図2に解析結果を示します。グラフは周波数1~100MHzでのシールドルーム内部中央での電界強度(単位 dBV/m)、表は電界強度の最大値(単位 V/m)とその周波数です。電界強度の最大値は照射電磁波の電界強度の約2倍となっていますが、これば電磁波がアースで完全反射し、反射波が進行波と重畳されているからと考えられます。また、シールドルームの上面に金属板を設置しても内部の電界強度が低減できないことが確認できます。いずれにしても、電磁波はコンクリート壁を容易に透過して内部に進入すると考えられます。
シールドルームB
シールドルームBの解析モデルを図3に示します。これは、厚さ約1 mmの金属板で囲まれた内寸 2×3×2 m3 の直方体のシールドルームです。スリットを一箇所設置しています。底面は無限に広い完全導体であるアースと接しています。
解析結果(入射角による違い)
図4に電磁波の入射角が0、30、60°とした3つのケースの解析結果を示します。スリットサイズは幅500 mm、高さ200 mmです。グラフは周波数1~100MHzでのシールドルーム内部中央での電界強度(単位 dBV/m)、表は電界強度の最大値(単位 V/m)とその周波数です(以降同様)。電界強度の最大値は入射角が30°のケースが最も大きいことが確認できます。また、どのケースでも周波数90MHzでピークが確認できます。このピークは、シールドルームが一種の空洞共振器としてこの周波数で共振しているためと考えられます。
解析結果(スリットサイズによる違い)
図5にスリットサイズが異なる3つのケースの解析結果を示します。スリット1、2、3 は幅×高さがそれぞれ500×200、250×100、125×50 mm2のモデルです。なお、電磁波の入射角は全てのケースで 30°です。電界強度の最大値はスリットが小さくなると小さくなることが確認できます。周波数90MHzでピークが発生するのは同様です。
シールドルームC
シールドルームCの解析モデルを図6に示します。これは、スリットに奥行があるモデルで、それ以外の解析条件はシールドルームBの解析モデルと同じです。
解析結果(スリットの奥行による違い)
図7にスリットの奥行が異なる3つのケースの解析結果を示します。スリット3、4、5は奥行がそれぞれ1、100、200 mmのモデルです。スリットサイズは幅125 mm、高さ50 mmです。電界強度の最大値はスリット5のモデルが最小であることが確認できます。また、周波数90MHz以外の周波数でのピークがいくつか確認できます。
解析結果(シールド材の効果)
図8に、スリット部分にシールド材を充填したケースの解析結果を示します。シールド材の電気的特性は、比誘電率2.0、導電率0.04 S/mです。スリット6は前項のスリット4のモデルに、スリット7は前項のスリット5のモデルに、それぞれシールド材を充填したケースです。シールド材を充填することで電界強度のレベルならびに最大電界強度が低減されることが確認できます。
まとめ
Fekoを用いて、いくつかのシールドルームのモデルにEMPを模擬したの電磁波を照射し、内部の電界強度を解析しました。コンクリートのシールドルームでは、電磁波に対するシールド効果が得られないことを確認しました。金属板で囲まれたスリットのあるシールドルームでは、電磁波の入射角、スリットのサイズや奥行によって、内部の電界強度が大きく変わることを確認しました。また、スリットにシールド材を充填することで、内部の電界強度を低減でき、電磁波に対するシールド効果が得られことを確認しました。