概要
マイクロ波帯通信、衛星通信/放送、電波天文などの分野で利用されるパラボラアンテナの解析事例を紹介します。パラボラアンテナは、放射器と回転放物導体面の反射器で構成され、動作波長に比べて大型あることが特徴です。いくつかの解析手法で放射パターンを算出し、それらの結果および計算コストを比較します。
パラボラアンテナのモデル
図1は、パラボラアンテナのモデルです。動作周波数は12.5GHzです。1次放射器は円錐ホーンアンテナで、開口の直径は2波長です。放物面反射器の直径は36波長で焦点距離は25波長です。円錐ホーンアンテナ後方の円形導波管の終端に基本モードを励振します。 このモデルをいくつかのソルバーで解析し、結果を比較します。
使用したソルバー
- マルチレベル高速多重極法。積分方程式の計算に多重極展開を適用して計算コストを大幅に削減する手法。
- モーメント法。積分方程式を解いて導体や誘電体の表面電流を計算し電磁界を算出する手法。
- 大要素物理光学法。物理光学法を適用する際に積分領域を相対的に大きい要素で分割して計算コストを削減する手法。
- 近傍界波源。近傍電磁界を積分することによって遠方電磁界を算出するための等価的な波源。
- 球モード波源。球モード関数展開によって遠方電磁界を算出するための等価的な波源。
● 解析結果
放射パターン
図2:MLFMM、 MoM+LEPO (連成あり)、MoM+LEPO (連成なし)で解析した放射パターンを示します。
図3:図2をメーンローブ付近で拡大した結果を示します。 MLFMMをベンチマークとした場合、MoM+LEPO(連成あり) は MoM+LEPO (連成なし) に比べてより近い結果になっています。
図4:MLFMM、Near Field Source、Spherical Source で解析した放射パターンを示します。
図5:図4をメーンローブ付近で拡大した結果を示します。 Near Field Source、Spherical Modes Source の結果は、MoM+LEPO (連成なし) に近い結果となっています。
計算コストの比較
表2:使用したソルバーとその計算コストを示します。
本例のように、電気的スケールが大きいモデルを計算する場合は、LEPOのような高周波近似法を利用すると計算コストを削減できますが、計算精度に注意する必要があります。
※使用プロセッサ:Intel Core i7-7700 3.6GHz 64bit
まとめ
モデル全体にMLFMMを適用したケース(ベンチマーク)は、近似解法を用いていないため、計算コストがかかりますが最も精度が高いと言えます。 MoM+LEPO (連成あり) は、高精度なMoMと高周波近似解法であるLEPOとのハイブリッド解析で、ホーンアンテナと反射器のカップリングが考慮されるためベンチマークの次に精度が高いと考えられます。ベンチマークと比較して、メーンローブ付近の放射パターンが良く一致している一方で、計算コストが大幅に低減されています。その他の手法でも、ベンチマークと類似の傾向が確認でき、計算コストはさらに低減されています。
※ ここで使用した全てのソルバーは、電磁波解析ソフトウェアFekoに標準で装備されています。