1 モデルの説明
ここでは高電圧絶縁装置の基本的なモデルを作成し、フローティング導体(電位が未知の導体)およびアンバランス電荷モードによる解析を説明する。このモデルは3つの導体(電極)と2つの磁器製の誘電体から構成されている。モデルは回転対称でモデル化できるので、図1-1の塗りつぶしで表示している断面領域をモデル化する。
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2 形状作成
2Dの形状モデリング機能を用いて、図2-1の解析モデル形状を作成する。形状作成はCADの操作のように極めてスムースである。
作成した形状は、
ポイント 60
セグメント 42
リージョン 5
となる。
(注)
セグメントは2個以上のポイントからなる直線や曲線である。リージョンはセグメントで囲まれた閉領域で、材料特性や分布電荷などを設定できる。
図2-1でピンク色のポイントは、ふたつ以上のセグメントで共有されているポイントを表す。
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3 物理特性の設定
作成した形状モデルに対して、形状モデルタイプ、電位境界条件および誘電体の材料特性を設定する。
(1) 物理グローバル設定
図3-1のダイアログで、形状モデルタイプをY軸まわり回転対称にする。その他はデフォルトであるが、ソルバータイプはフィールド、オペレーションモードは静的、材料デフォルトは誘電率になっている。
バランス電荷は、絶縁された閉じたモデルではチェックを入れる。チェックがないと遠方で電位が零という効果が入るが、後でこの違いを説明している。
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(2) 電位境界条件の設定
形状選択タイプをリージョンに設定し、図3-2のように、上部の電極を10000 V、下部の電極を0 Vに設定する。中間の電極は電位未知であるので、フローティング電位とし、その番号1(昇順)を設定する。
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(2) 電位境界条件の設定
形状選択タイプをリージョンに設定し、図3-2のように、上部の電極を10000 V、下部の電極を0 Vに設定する。中間の電極は電位未知であるので、フローティング電位とし、その番号1(昇順)を設定する。
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4 モデルの解析
作成した形状モデルに対して、形状モデルタイプ、電位境界条件および誘電体の材料特性を設定する。
境界要素法(BEM)とメッシュはセルフアダプティブで解析する。これはデフォルトである。
BEMでは電位が設定されている境界および材料特性の異なる境界などに、1Dの境界要素を作成する。図4-1のセルフアダプティブで作成された境界要素数は83である。
BEMは境界要素に等価なソース(電荷)を分布させる。ソースが求まると、任意点の電位はどこでも、ソースとその影響関数であるグリーン関数を用いて、境界積分により求めることができる。一般的にソースは未知であるので、与えられた電位境界条件や、物質境界での電界や電束密度の連続性を満足するように、離散化して得られる連立一次方程式を解いて、等価なソースが求まる。
(注)
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5 解析結果の表示
絶縁装置の中心軸に沿う電位のグラフ図を作成する。
解析結果表示のダイアログで、ビュータイプをVoltageにし、ディスプレイフォームをGraphs、および表示位置をGraph Along Lineに選択してから、グラフを表示する。
表示ラインの始点と終点として、
0, 9.6
0, -8.1
を入力する。
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電位グラフ図を図5-2に示している。ここで、電位は10000 Vから0 Vになり、3つの電極に対応する一定電位が示される。
電位未知として設定した中央部の電極電位は5000 V以下になる。
これはアンバランスモードで計算しているためで、電荷の総和を強制的にゼロにしていないからである。これは図5-3 (a)の電位コンター図を表示しても明らかである。
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逆にバランス電荷で解くと、図5-3 (b)のような結果になり、中央部の電極電位は5000 Vになる。しかしながら、このモードでの解析は無限遠方で電位が5000 Vになることを要求される。これは絶縁装置がグラウンド上に配置されているときには、現実的な解析条件ではない。アンバランスモードで解くことの利点は、大きなグラウンドをモデル化しなくても、同じ効果を持つ結果が得られることにある。
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