コイルは多数の素線を束ねて作られます。そのため、コイルに流れる電流の周波数が高くなるにつれ、表皮効果や近接効果などにより、銅線内の電流の偏りが顕著になります。このことは、効率悪化の原因になります。
コイルが作る磁場の評価を目的とするなら、図1上のように、コイルを素線ではなく、ブロックでモデル化すれば十分です。しかしながら、上述のように、銅線内の電流の偏りが原因となる現象をより精密に評価するのであれば、図1下のように、素線をモデル化する必要があります。
ここでは、JMAGのトランス解析機能を用いた、チョークコイルにおける、銅線内の電流の偏りを解析した事例を示します。
トランス解析機能では、コア、ボビン、コイルに関する、形状データのテンプレートが用意されているため、モデル化の煩わしさがなく、解析結果の評価に集中できます。図2左はこの解析事例で示すチョークコイルの1/4モデルを示しています。図2右はその断面を示しています。コア中央には0.2 (mm)のギャップが設けられています。コアの材料特性はTDK:PC44_60degです。銅線直径は0.35 (mm)、被覆0.01 (mm)、100回巻きのコイルを、円筒型のボビンに巻きつけています。コイルに流す電流を図3のグラフに示します。0.475 (A)から0.525 (A)の間を、振幅0.025 (A)、周波数 100 (kHz)で変動する電流です。
● 解析結果
図4に電流密度分布図を示します。
図4は銅線断面中の電流密度分布図です。図4右赤枠内の銅線断面について、図示しています。電流の時間変化が大きい位相0、180度付近では、電流密度分布の偏りが顕著です。一方、位相90、270度付近では、電流の時間変化が小さく、偏りもほとんど見られません。この他、損失の評価などもおこなえます。素線タイプの変更などによる、思考実験・評価を計算機内でできるため、試作回数低減に役立てられるでしょう。