PSIMとSPICE

PSIMとSPICE

1. 概要

 2つの回路シミュレータPSIMとSPICE[1]を比較した事例を紹介します。SPICEはトランジスタやダイオードの波形の詳細な様子を精度良く解析するのが得意です。しかし、主にスイッチング動作を扱うパワーエレクトロニクス分野では、計算に時間がかかるという問題や、計算が発散したり収束しなかったりするという問題が発生します。ここでは、典型的な2つの回路について、PSIMとSPICEで解析した結果を比較します。

[1] SPICE : Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis、1973年にカリフォルニア大学バークレー校で開発された電子回路のアナログ動作をシミュレーションするソフトウェア。

2. ハーフブリッジ・コンバータ

 図1にハーフブリッジ・コンバータの回路モデルを示します。PSIMのMOSFETは理想モデルで、SPICEのMOSFETはIXYS Coloradoモデルです。各 MOSFET のゲートのオン/オフ コントローラ (マルチレベル) を設定して解析を実行します。

 

図1 ハーフブリッジ・コンバータ回路

 

Vo1での電圧波形を図2(a)に示します。この図ではPSIMとSPICEの波形に大きな差異は確認できません。時間スケールを拡大した電圧波形の立ち下がり部分を図2(b)に示します。この図ではPSIMの波形が理想的な台形波であるのに対しSPICEの波形はやや複雑な形になっていて詳細に解析されていることが確認できます。

 

 

 

図2(a) 電圧波形

 

図2(b) 電圧波形(拡大)

 

3. インバータ

 図3にインバータの回路モデルを示します。PSIMのMOSFETはLevel2モデルで、SPICEのMOSFETはC2M0080120Dモデルです。

 

図3 インバータ回路

VQ1での電圧波形を図4(a)に、IQ1での電流波形を図4(b)に、それぞれ示します。PSIMとSPICEの波形に大きな差異は確認できません。

 

 

図4(a) 電圧波形

 

図4(b) 電流波形

 

PSIMおよびSPICEの解析にかかった計算時間を表1に示します。この事例では、SPICEはPSIMの900倍の計算時間がかかることが確認できます。

表1 計算時間の比較

 

4. まとめ

 2つの回路シミュレータSPICEとPSIMを比較した事例を紹介しました。ハーフブリッジ・コンバータでは、SPICEがPSIMに比べてトランジスタの波形の詳細な様子を解析できることを示しました。インバータでは、SPICEがPSIMに比べて非常に計算時間がかかることを示しました。

 パワーエレクトロニクス分野では、スイッチング波形を詳細に再現する必要があまりないので、短時間で計算できるPSIMが幅広く利用されています。

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