筋骨格解析 -人体の動作メカニズムを解き明かす
近年、医工連携など複合領域研究への取り組みが盛んです。これを受け、CAE解析では従来の適用域を超えたすそ野の広がりが見られます。
本コラムでは、バイオエンジニアリング分野のCAEである筋骨格解析について解説します。
筋骨格解析とは
筋骨格解析とは、筋肉と骨で構成された人体モデル(筋骨格モデル)に人間の動作を再現させ、動作中の筋活動とモデル各部に生じる力を計算で求めるものです。解析には、モーションキャプチャ装置で測定した被験者の動作データが用いられます。動作データについては、スティックフィギュア(剛体リンク)モデルを用いて測定データを可視化することで、測定が正しく行われていることを容易に確認できます。スティックフィギュアは図1(左)に示すようにいくつかの棒で人体を表した簡素なモデルですが、動作の確認と分析に用いられています。他方、筋骨格解析では、図1(右)に示すように解剖学的に正確な骨格に筋肉が付加された筋骨格モデルを用いて筋活動の状態を計算し、同時に人体各部に発生する力を計算します。
解析手法
筋骨格解析のアプローチには大きく分けて2種類あります。
人の動きは、脳の命令が神経細胞を伝わって筋肉を収縮させることで起こります。この順序に沿って、筋肉の活動を起点に人体の動きを解明しようという試みが順動力学解析です。順動力学解析では、筋骨格モデルに筋肉の活動を入力し、その際に生じる動きを計算します。例えば腕を持ち上げて棚の上の瓶を取るという動きを順動力学解析で計算する場合、指や手や腕の筋肉のほかに、腕を持ち上げる肩や背中の筋肉、上半身の動きを支える腹筋や背筋、体の姿勢を保つ足の筋肉、などに関する筋活動データを入力として与えて、全身または対象部位の動きを計算します。
他方、逆動力学解析は動きを起点としたアプローチです。逆動力学解析では、人体の動作を入力し、そこから筋活動量を算出します。動作はモーションキャプチャ装置で測定し、動作データを筋骨格モデルに与えて、筋動員モデル(それぞれの筋肉が動作に寄与する割合を定めたモデル)を用いて筋肉の活動量を計算します。筋骨格解析では逆動力学アプローチが多用される傾向があり、本コラムでも、特に断りがない場合は逆動力学アプローチによる筋骨格解析を解説します。
適用分野
筋骨格解析は次のような分野に適用されています。
1)ヒトの動きが主なテーマとなる研究
人間の動きを解明し、運動機能の回復・向上を図り、同時に怪我の発生メカニズム解明と防止を目的とする研究分野。スポーツ科学、リハビリ歩行・転倒解析、労務作業における腰痛防止解析 など。
2)ヒトの動きを補助する装置器具の開発
マン(ヒト)-マシン(機械)複合解析モデルを用いて効果的にヒトを支える装置器具を開発する研究領域。義肢装具、パワーアシスト装具(ウェアラブルロボット)、リハビリ訓練装置、エクササイズ機器 など。
3)ヒトにやさしい製品の研究開発
ヒトの体にかかる負担が少なく、操作容易性・使用快適性を備えた市販工業製品の研究開発。人工関節などのインプラント製品、自動車、車いす、スポーツシューズ、スポーツ用具 など。
おわりに
筋骨格解析は人間に関係する様々な研究領域に適用することができ、今後ますますその範囲は広がっていくと期待されています。
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