樹脂成形と レオロジー 第 1 回「 レオロジーとは 」
はじめに
レオロジーとは米国の科学者Eugene Cook Binghamにより名付けられたRheo(流動、変形)とlogos(法則)を語源とした合成語です。彼は粘土と水などの懸濁液の研究中に古典物理学では取り扱えない特性があることを見出し、このような材料を対象とした新しい学問分野として1920年代にRheologyを提案しました。世界的に広がったのは1940年以降で、重要な研究対象である合成繊維、合成ゴム、プラスチックなどの高分子材料の生産が始まり、ここから学問体系が大きく発展しました。現在では「物質の流動と変形に関する科学」という意味になっています。一方、コンピュータ能力の飛躍的向上により、計算機設計支援技術であるCAE(Computer Aided Engineering )が発展し、新製品開発時の予想問題点とその解決策の机上検討が設計業務の重要な役割を担うようになってきています。本稿では、プラスチック成形加工を対象としたレオロジーの基礎とCAEとの組合せ技術について連載を始めたいと思います。
レオロジーは固体と液体の中間領域の物質の特性を扱う
物体を変形させようとすると抵抗力が発生します。この力が変形量によって決まるタイプが固体、変形速度によって決まるタイプが液体と定義できると思います。前者の代表が金属、後者は水、油、空気などで、これらを対象として学問体系が築き上げられてきました。しかし、実際には固体、液体の区別ができない物質が数多く存在しています。これらの特性をどのように取り扱うかがレオロジーの役割になります。キーワードは粘弾性体、非ニュートン流体などになります。なお、連続体力学とは巨視的な視点における変形を伴った物体の運動を論じる力学のことで、原子や分子の運動の不連続性や不確実性は取り扱いません。このため、物質の挙動を支配方程式の形にでき、この力学体系が科学技術の発展に大きく寄与してきました。
トリビア(豆知識)
ギリシャ時代の哲学者ヘラクレイトスの有名な言葉に“パンタレイ(παντα ρει)”があります。
英語では“Everything flows”、日本語では「万物流転」です。 Binghamがこのレイ“ρει”を使ってRheologyという言葉を作りました。宇宙の彼方、地球表層部や内部で生じる自然現象および我々が日常生活で遭遇する諸々の事象は、いずれも流転の部類に包含されるでしょう。これら森羅万象にはまだまだ計り知れないものが数多くあり、これらに対する人々の解明への努力は永遠に続くことでしょう。
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