攪拌槽の非定常解析(熱硬化性樹脂)

攪拌槽の非定常解析(熱硬化性樹脂)

攪拌槽の非定常解析(熱硬化性樹脂)





1. 攪拌槽の定常解析

 流体解析ソフトは攪拌翼の形状や設置方法、角速度、攪拌槽の形状など、適切な攪拌条件を探す際の有効なツールです。一般的に、攪拌解析は計算コストを考慮し定常解析を実施する事が多く、中心断面に射影した流速ベクトルから槽内の流れの様子を調査します。この際、攪拌翼の回転運動の計算はMRF(Multiple Reference Frame)と呼ばれる静止座標系と回転座標系を組み合わせた手法を採用し、計算負荷を減らします(図1)。さらに攪拌槽内にバッフル(邪魔板)を配置している場合、界面変動は抑えられ界面をfree-slip境界に設定する事が可能になります。VOF法やALE法等の負荷の高い多相流による自由表面の計算が不要となり、計算を簡略化できます。



2. 攪拌槽の非定常解析

 一方で、定常では解けない攪拌問題も存在します。例えば複数種類の液体が均一に混合されるまでの時間を知りたいた場合や、一定時間ごとに回転方向を切り替える正逆反転攪拌などです。また、攪拌中に粘度が時々刻々変化する液体状の熱硬化性樹脂材料を均一に攪拌する混合プロセスも挙げられます。ライセンスフリーであるOpenFOAMを利用する事で、計算コストを気にすることなく攪拌槽の非定常解析を実施できます。攪拌槽の非定常解析では、移動メッシュ(AMI)により、回転翼を実際に回転運動させます(図2)。

 次章から、OpenFOAMによる攪拌槽の非定常解析について熱硬化性樹脂を例に詳しく説明します。



3. 熱硬化性樹脂の攪拌解析

 熱硬化性樹脂製品の成形では、主剤と硬化剤に熱を加え硬化させます。主剤と硬化剤が不均一な状態で熱を加えると成型不良の原因となるため、型内に材料を注入する前に主剤と硬化剤を均一に攪拌する工程が必要になります。この際、攪拌中も硬化反応が進行するため、攪拌槽内では反応に伴う粘度変化が起きています。攪拌中の反応を考えなくても良い場合、材料を均一に攪拌するためには、攪拌時間の延長や角速度を上げる等、比較的シンプルな方法を取ることができます。一方、熱硬化性樹脂の攪拌工程では、長時間の攪拌は硬化反応を過度に進めてしまう危険性があります。さらに、せん断速度依存でも硬化反応は加速するため、角速度を上げる方法にも検討が必要となります。

 通常、流体解析ソフトは適切な攪拌条件を調査するための有効なツールとなりますが、多くの市販ソフトには硬化反応の進行計算や反応に伴って変化する特殊な粘度モデルは組み込まれていません。そこで、OpenFOAMをカスタマイズし反応を考慮した主剤と硬化剤の攪拌解析が可能なソルバーを開発しました。

樹脂全般に関する情報は、Discover CAEの樹脂成形とレオロジーもご参照ください。

4. 計算手法

 以下に示す機能をOpenFOAM ver6に追加しました。





5. 解析事例

 撹拌槽の解析モデルを図4-1に示します。計算は,非圧縮性流体の非定常解析とし,VOF法による自由表面の計算を行いました。撹拌翼は,移動メッシュ(AMI)を用いて回転させています。反応体積比は1:1としました。



 図4-2に、反応曲線と粘度特性を示します。



 図4-3に代表時刻における反応率のコンター図を、図4-4に残存する主剤の等値面(ISOサーフェース)を示します。





 弊社が開発したカスタマイズソルバーによって、攪拌によって反応がどのくらい進むのか、反応率が均一になっているか等を確認する事が可能となり、主剤と硬化剤を均一に混合する適切な攪拌条件を調査する事ができます。

参考文献
 佐伯準一他2: 成形加工, 16, 309(2004)



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