樹脂成形とレオロジー 第10回「 粘度の温度依存性の表わし方 」
液体が形を変えようとするとき、分子間力による抵抗が生じ、この大きさが粘度になります。温度が上昇すると液体の分子運動が活発になり、自由に動きたがるため粘度は低下します。プラスチックの成形加工工程において樹脂温度は大きく変化するため、粘度もその影響を大きく受けます。したがって、CAEで用いられる粘度式では粘度の温度依存性を加えることが一般的になっています。ここではその代表的なモデル式をご紹介します。
アンドレード(Andrade)の式
粘度の温度依存性を表すのに広く用いられるのがアンドレード (Andrade)の式です。これを(1)式に示します。また、b=B/R として表した式を(2)式に示します。
ここで、η:粘度、T:温度、R:気体定数、a、B、b :材料固有の係数です。(2)式は(3)式の形にできます。
ニュートン流体の場合、数点の温度にて粘度を計測し、ln η と1/Tの片対数プロットで直線となればアンドレードの式の形に当てはめられます。一方、非ニュートン流体の場合、せん断速度によって粘度が異なりますが、せん断速度毎に数点の温度にて粘度計測を行い、片対数上にプロットをします。ここで傾きの等しい平行線が得られればやはりアンドレードの式に当てはめられます。指数則モデルと組み合わせる場合は次の形になります。
WLF(Williams,Landel,Ferry)モデル式
アンドレードの式では、ln η と1/Tの片対数プロットで直線となることが前提ですが、これに従わない高分子材料用に考案されたのが、Williams,Landel,Ferryによって導かれたWLFモデル式です。これを(6)式、(7)式に示します。WLFモデルは式中に温度差という表現があり、ある温度における粘度が基準温度状態からどの程度ずれるのかというシフトファクターとしての表現をするときに便利であり、プラスチックCAEの分野でよく使われます。
(6)式のT に基準温度Tr を代入すると指数項の分子が0となるので aT =1 となります。各温度での aT の値は基準温度の粘度に対する割合を示しています。指数則モデルと組み合わせる場合は次の形になります。
粘度の圧力依存性を加味した式もありますが、CAEではせん断速度と温度依存性を考慮した解析が一般的です。
WLF式は無次元の形をしており、粘度以外の物性値でも温度依存性を表現するのに便利です。したがって、緩和弾性率の温度依存性を表現する場合などにも使われています。
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