DEM (離散化要素法)は何ができるか?
DEM (離散化要素法, Discrete Element Method)は、有限要素法や有限体積法とは異なり、不連続な対象を計算するための手法です。構造解析や流体解析では扱うのが苦手な現象を解くことができ、近年ではDEM専用の市販解析ソフトがいくつもリリースされています。ここでは、DEMの計算手法やDEMソフト(DEMを採用した解析ソフト)の計算機能などを簡単に説明します。
1. 粒子の計算
DEMは、砂やパウダーなど、連続体近似できない独立した粒子状の集まりを対象とした計算手法です。粒子の移動や粒子同士の反発、壁面との衝突などを、質点の運動方程式をベースに計算します。粒子一つ一つの運動を解くことで、粒子全体の動きを求めます。
粒子(節点)をベースとする計算手法にはSPH法やMPS法がありますが、これらは通常、連続体をベースにした運動方程式(流体解析ではナビエストークス方程式)をもとに粒子の運動を計算しており、DEMとは対象(連続体かどうか)と基礎式が異なります。
DEMソフトと流体解析ソフトを連成させることで、流体の流れに乗って粒子がどのような挙動を示すかを計算することができます。標準的な流体解析ソフトにも粒子追跡機能がありますが、粒子同士の衝突は考慮できません。粒子が密に存在する場合、粒子同士の衝突は実現象を再現する上で無視できませんが、 DEMソフトと連成させることで粒子間の衝突が考慮できるようになります。 また、DEMでは粒子の堆積状態が計算できるため、洗堀現象の再現が可能になります。
洗堀の解析事例:https://www.terrabyte.co.jp/OpenFOAM/exe-OF/of-sample9.htm
2. DEMの計算手法
DEMでは、質点の運動方程式(並進と回転)により、時々刻々と変化する粒子すべての中心座標を計算します。
mは質量、vは流速、Fは外力や接着力等、Iは慣性モーメント、ωは角速度、Mは粒子に生じるトルクです。粒子のパラメータとして定義する径、密度、反発係数、摩擦係数等により、運動の変化が考慮されます。
続いて、DEMの計算で重要となる反発部分の計算で主に利用されているソフトスフィアモデルについて説明します。
今、弾性体の球同士の衝突を考えます。弾性体の球は衝突後に変形し、材質や変形量に応じて反発し跳ね返ります。
DEMでは実際に生じる形状の変形の代わりに、パラメータとして定義する径に基づく仮想的な球を考え、球同士の重なりに応じた反発力を計算します(ソフトスフィアモデル)。この時、摩擦係数や反発係数等のパラメータが粒子の挙動に大きな影響を与えます。なお、DEMの計算では、実現象を精度よく再現するために、これらのパラメータを適切な値に調節するキャリブレーションと呼ばれる作業が欠かせません。
3. DEMソフトの機能
ソフトによって違いはありますが、組み込まれている物理モデルの一部を説明します。
物体の運動:読み込んだCAD形状に並進運動や回転運動を設定する。
計算メッシュを使わないので、空間内を自由に動かせる。
連成機能:流体解析ソフトや構造解析ソフト、電磁場解析ソフトと連成させる。
形状表現:DEM粒子(球)を複数個連結しいろいろな形を表現する (マルチ球体法)
分裂・結合:指定した結合力以上の外力が加わった際に粒子を分裂させる。
外力により粒子同士を結合させる。
4. 計算対象
DEMソルバーは、様々な分野に利用されています。他のソルバーと連成させれば対象範囲はさらに広がるものと期待されます。
1. 海洋・土木 : 洗堀、土石流、ロックフィルダム、漂砂・流砂
2. バレル研磨 : 研磨状況の調査や最適化
3. 空調 : 集塵装置(工業用、家庭用)
4. 精密機器 : プリンターのトナー供給システム
磁気相互作用を有する電子写真システムのトナー挙動
5. 食品・医療 : コーティング、咀嚼、攪拌、混合、分離
6. 農業・鉱業・化学 : 振動搬送、選別、輸送、貯蔵、充填、流動層
7. 鉄道 : バラスト軌道の沈下
8. その他 : 希薄流体、宇宙
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