AnyBody通信 Vol.3 歩行の消費エネルギーの計算
今回のAnyBody通信は、歩行で消費されるエネルギーを解説します。
AnyBodyにおける代謝エネルギーの計算
AnyBodyには ”Pmet” という出力項目があり、筋肉の代謝パワー[J/s]を示しています。
各瞬間における全身の筋肉の代謝パワー”Pmet”を合算し、nステップ目の値、Pmet(n) からdt秒間の仕事 Q = Pmet(n) × dt を計算して解析終了時までの総和をとることで、その動作による代謝エネルギー[J]が求まります。周期的な動作であれば、一周期の動作を解析すれば継続して動作した場合の代謝エネルギーが求まります。
以下に、歩行一周期(右足踵接地-右足踵接地)の解析を行い、代謝エネルギーを求めてみます。
【解析モデルおよび条件】
- モデル 男性(身長1.75m、体重66kg)
- モーショキャプチャVICONで計測した自然な歩行動作を使用
- 床反力にはAnyBodyの反力推定機能を使用
- 上肢及び下肢の筋肉はHillの筋肉モデルを適用
- Pmetの算出にはUmbergerの筋代謝モデルを適用※
※ Brian R. Umberger (2010) “Stance and swing phase costs in human walking” J. R.Soc. Interface 7, 1329–1340.
【解析結果】
AnyBodyで得られた解析結果のアニメーションを図1に示します。
図2に、進行方向の骨盤の変位と時間の関係を示します。歩行一周期にかかる時間は1.23秒で、その間の骨盤の進行方向変位は1.47m、平均移動速度は約1.2[m/秒] です。
図3に筋の代謝エネルギーを示します。累計値の計算で、歩行一周期における消費エネルギーは303[J]と出力されています。
ここで、仮に30分間、同じペースで歩行を続けた場合、消費エネルギーの累計は
303[J]×60/1.23×30 = 443,414.63[J]
となります。
次章では、この解析結果が妥当かどうかをMETsを用いて調べてみます。
METs による消費エネルギー算出
METs(メッツ)は代謝当量MET(代謝率:Metabolic equivalent)に複数形のsがついたもので、身体活動(運動)の強さを表す単位です。ある動作が消費するエネルギーが安静時の消費エネルギーの何倍かを表しており、 METs値が大きいほど運動量が大きいことを意味します。
METs=運動・作業時代謝量/安静代謝量
基準値は静かに座っているとき(安静座位)の代謝量で、性別や体重に関わらず必要な酸素量(酸素必要量)を3.5[ml/kg/分]、酸素1リットルあたりの熱量数を5[kcal]として計算します。
1METsにおける1時間の消費エネルギーを酸素1ミリリットルあたりの熱量数 (5[cal/ml])に換算すると、次のようになります。
3.5[ml/(kg×分)]×5[cal/ml]×60[分/時間]=1050[cal/(kg×時間)]
1[METs]=1.05[kcal/(kg×時間)]
歩行速度と酸素消費量(VO_2)には相関があり、下の式※で概算値が求まりますので、ここから消費エネルギーを求めます。
VO_2=速度(m/分)×0.1+3.5
※ MoreHouse et al. (1976) Physiology Of Exercise
解析した歩行データは平均1.2[m/秒] で、分速では平均72[m/分]ですから
VO_2=72[m/分]×0.1+3.5 = 10.7
となります。これをMETsで表すと 10.7÷3.5=3.057 になります。
国立研究開発法人 医療基礎・健康・栄養研究所ホームページの掲載資料「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』 2012年4月11日改訂」に、さまざまな動作のMETs値が載っています (https://www.nibiohn.go.jp/eiken/programs/2011mets.pdf) 。今回の歩行動作(72m/分, 4.32km/時)に近いものとして、同資料40ページに「歩行:4.0km/時、平らで固い地面」のときのMETs値は3とあり、上の値とほぼ一致しています。
体重66kgの人が30分間、3METsの運動をした場合、METsによる歩行の消費エネルギーは103.95 [kcal]になります。
66[Kg]×1.05[kcal/(kg×時間)]×0.5[時間]×3 [METs] = 103.95 [kcal]
先述の通り、AnyBodyの解析では代謝エネルギーは443,414.63[J]と求まりました。これを4.184 [J] =1[cal]に換算すると、代謝エネルギーは105.98[kcal]になり、METsによる解析結果103.95 [kcal]とほぼ一致することが確認できます。
AnyBodyでは、歩行動作の消費エネルギーについて妥当な計算を行うことが過去の解析経験からも確認できています。 このように、AnyBodyでは動作ごとの代謝エネルギーを比較して効率的な動作を判断したり、代謝エネルギーから逆算して酸素消費量を求めることができます。
関連記事/関連ページ
●AnyBody通信 Vol.4 筋活動情報を用いた機械学習
●AnyBody通信 Vol.2 ヒトの身体活動と筋シナジー
●AnyBody Publication Oct-Nov 2021
- 論文: “新しい筋骨格モデリングシステムによって分析された、全体的な矢状方向の不整合と股関節接触力の増加との関連 ”
“Association between global sagittal malalignment and increasing hip joint contact force, analyzed by a novel musculoskeletal modeling system” #OpenAccess
Takanori Miura, Naohisa Miyakoshi, Kimio Saito, Hiroaki Kijima, Jumpei Iida, Kazutoshi Hatakeyama, Kotaro Suzuki, Akira Komatsu, Takehiro Iwami, Tosiki Matsunaga, Yoichi Shimada. Department of Orthopedic Surgery, Akita University Graduate School of Medicine, Akita, Japan.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34710144/
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0259049 - ウェブキャスト: ”下肢関節荷重の分析のための被験者固有の大腿骨ねじれのモデリング”
”Modeling subject-specific femoral torsion for the analysis of lower-limb joint loads”
Dr. Enrico De Pieri , Research Associate at the University of Basel Children’s Hospital
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fbioe.2021.679360/full
https://www.anybodytech.com/events/?fbclid=IwAR1QXU7-NJF6mhAUvIdYzM-DIOa92YtKu0i0f422zXN2gcHehQF747e41LE - 論文 ”体重スクワット中の内側膝接触力に対するスタンス幅とつま先方向の影響”
”Influence of stance width and toe direction on medial knee contact force during bodyweight squats”
Akihiro Asayama、a) ,Hiroshige Tateuchi a), Momoko Yamagata a)b)c), Noriaki Ichihashi a)
a)Human Health Sciences, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Japan
b)Department of Human Development, Graduate School of Human Development and Environment, Kobe University, Japan
c)Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science Kojimachi Business Center Building, Japan
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0021929021005844?via%3Dihub - ”人工膝関節全置換術の解剖学ベースの動的モデル”
”An anatomy-based dynamic model of total knee arthroplasty”
Ehsan Askari a) , Michael S. Andersen b)
a)Department of Electromechanical, Systems and Metal Engineering, Ghent University, 9052, Zwijnaarde, Belgium
b)Department of Materials and Production, Aalborg University, 9220, Aalborg, Denmark
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11071-021-06949-4 - 論文 ”持ち上げ作業における従来のアプローチと比較した低侵襲脊椎手術の効果の生体力学的評価”
”Biomechanical Evaluation of the Effect of Minimally Invasive Spine Surgery Compared with Traditional Approaches in Lifting Tasks”
John Rasmussen 1)*, www.frontiersin.orgKristoffer Iversen 2), www.frontiersin.orgBjørn Keller Engelund 2) and www.frontiersin.orgSten Rasmussen 3)
1) Department of Materials and Production, Aalborg University, Aalborg, Denmark
2) AnyBody Technology A/S, Aalborg, Denmark
3) Department of Clinical Medicine, Aalborg University and Aalborg University Hospital, Aalborg, Denmark.
https://conta.cc/3lO1jTW