AnyBody通信 Vol.4 筋活動情報を用いた機械学習

AnyBody通信  Vol.4 筋活動情報を用いた機械学習

AnyBody通信 Vol.4 筋活動情報を用いた機械学習

AI(人工知能)は「第3次ブーム」と言われ、現在めざましく発達しています。今回は、機械学習の代表例のひとつである画像判断を用いて、AnyBodyから得られる筋活動情報に機械学習を応用した例を紹介します。





AIと機械学習ライブラリ

 機械学習や深層学習などのAIソフトが大きく進化しています。オープンソースのツールが公開され、グーグルの「TensorFlow」やソニーの「Neural Network Libraries」など完成度の高い機械学習ライブラリが公開される例も見られます。これらのツールが多くの人に試用され、その情報が公開されることで、ツールは更に進化し、浸透が加速するという循環が生まれています。人が処理するには時間が掛かり過ぎる膨大なビッグデータを機械(コンピュータ + ソフトウェア)が短時間で分析し、新たな知見の獲得や未来予測が行なえる点は機械学習の大きなメリットでしょう。

 筋骨格ソフトAnyBodyは、ヒトの動作情報とヒトが外部環境から受ける力の情報を用いて、人体内部情報である「筋活動量」を算出します。AnyBodyの標準人体モデルには860本の骨格筋があり、解析ではこれらすべての筋活動情報を計算します。動作がシンプルならデータ量は少なくて済みますが、長時間にわたる動作を対象とする場合はデータ量もそれなりに大きくなります。大勢の被験者がいて複数の動作パターンを扱う場合、データ量は飛躍的に増大し、ビックデータと呼べる量に膨れ上がることもあります。

 以下に、機械学習の代表例である画像判断を用いて、AnyBodyで得られる筋活動情報の判定に機械学習を応用した例を紹介します。

機械学習による画像判断

emsp;まずは機械学習による画像判断のシナリオを説明するため、手書き文字「4」と「9」の画像識別の問題を取り上げます。

emsp;「 4 」を手書きした画像と「 9 」を手書きした画像を沢山準備し、それらの文字画像をスキャンしてデータベースに登録してゆきます。登録の際、手書き文字「 4 」の画像には”正解”となる数値属性0を、手書き文字「 9 」の画像には”正解”となる数値属性1をペアで定義する、ということをすべての画像について行います。こうして、手書き文字「 4 」と「 9 」を判定するための ”画像” と ”正解” のデータセットが作成され、これを「教師データ」と呼びます。

emsp;次に、新たに「 4 」か「 9 」の手書き文字画像をスキャナーで認識させます。AIは、教師データと照合して手書き文字画像の数値属性が0~1のどこに位置するかを類推し、数値属性が0に近い手書き文字画像を「 4 」、1に近い手書き文字画像を「 9 」と判断します(図1)。この様にして、機械学習によって手書き文字「 4 」「 9 」の画像判断をおこなうAIができあがります。



AIが歩行者の年齢を推定

 今度は、上で説明した「機械学習による画像判断」と同じ原理を用いて、AnyBodyで得た筋活動情報の判定に機械学習を適用したスタディの解説です。45人の被験者の「歩行1サイクルの筋活動情報」と、被験者の「年齢(年代)」のペアのデータセットを教師データとして準備して、未知の被験者の筋活動情報からその被検者の年齢(年代)を推定させるというものです。

 最初に、筋活動情報を画像に変換します。 AnyBodyの標準人体モデルには860本の骨格筋があり、出力ファイルには動作中の筋活動量の時刻歴データが含まれます。これを表形式に変換し、860本の筋肉を縦方向に、時間を横方向にとり、各セルに筋肉の活動量データを流し込んで、筋活動量がゼロのセルを黒に、筋活動量が最大のセルを白に、それ以外のセルは値に応じた中間色に着色したカラーマップを作成します。こうして、一人の被検者に一枚の筋活動情報の画像を準備します(図2)。



 次に、画像とペアにする”正解”を、被験者が20歳代であれば0、60歳以上であれば1と定義し、これをすべての画像に設定したものを教師データとします。これで、未知の画像が入力された時に「教師データの20歳代の画像と特徴が合致するものは0、60歳以上の画像と特徴が合致するものは1と判定」される学習シナリオが形成されます。

 そして、新たに11人の被検者に対して解析を行い、被験者の年齢をAIに推定させて学習の成果を確認します。11人中9人の年代が正しく分類され、正解率は81.8%という結果が得られます(図3) 。



今後の展開と課題

 測定データと、あるラべリングの基準があって、それらが多く蓄積されれば、新たな動作データに対して人間が判別できないことを、近い将来、AIが判別できるようになると期待できます。

 工業製品の設計開発では、「~心地の良さ」 といった数値判定が難しい付加価値を与えなければならないことがあります。製品が使われているときの体勢や姿勢、反力などの使用者の身体情報と、「使いやすい、使いづらい」という使用者の判断(ラべリング)情報があって、大勢の製品モニターからこれらが得られるなら、その製品は教師データが蓄積されて機械学習が適用できる可能性が出てきます。製品によって拘束される予測姿勢や反力値などを与えて、その筋活動を検証すれば「使いやすい」、「使い心地が良い」製品かどうかを機械学習で判定できる可能性がある、ということです。

 今回紹介したのは年代の分類でしたが、例えば臨床判断のサポートツールとして健常者の歩行データと特定の病状で特徴的な歩行データの蓄積を教師データに用い、歩行データから病状の有無の判断に資する情報が機械学習で得られる可能性が見えてきます。

 課題もあります。AIでは、歩行の「どこ」を見て年代を分類しているかはわかりません。とにかく人間より正しく分類できた、という結果が得られるのみです。こうして得た情報をどう使うのか、あるいは、実行前にどういう情報を引き出せるのかは、今後検討を要する課題でしょう。また、正しく分類できるかは教師データの質、および検証データの質に依存します。今回の例でいえば、被検者の全員で歩行1サイクル(右足片脚立脚~右足片脚立脚)のタイミングが揃ったデータを用意する必要がありました。また、元となるモーションキャプチャ計測データの精度と、運動解析/逆動力学解析の計算精度もAI推定結果に影響を与えます。

 AnyBody通信では、これからもバイオメカニクス解析と周辺情報を発信してゆきます。




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