AnyBody通信 Vol.6 なぜ動くと関節に負荷が生じるのか?

AnyBody通信  Vol.6 なぜ動くと関節に負荷が生じるのか?

AnyBody通信 Vol.6 なぜ動くと関節に負荷が生じるのか?

人間が動作をするためには「動きを生み出すための力」が必要になります。一方で、「動きを生み出すための力」は関節にかかる負荷を増大させます。動作時の関節負荷はAnyBodyで容易に推定できますが、一歩踏み込んで考えてみると「『動きを生み出す力』がどういった力学的なメカニズムで動作時の関節負荷を生じさせるか?」といった新たな問いが生まれます。
 この問いに対する答えは、AnyBodyのAnyForceMomentMeasure2クラスを活用して得ることができます。今回は、AnyForceMomentMeasure2を歩行時の股関節負荷に適用することで股関節の圧迫力が発生するメカニズムを解説します。





動作時の関節負荷が発生するメカニズムを知る意義

 医療分野や労働衛生分野では関節に加わる圧迫力・せん断力などを知ることは重要と考えられています。これは、様々な動作時の関節に生じる負荷がケガや病気の発症・進行と密接に関係していることに起因しています。例えば、高齢者の多くが悩まされている変形性膝関節症の発症・進行は膝関節にかかる負荷の累積値と密接に関係していることが報告されています(Voinier D, et al. 2020)。そのため、医療分野や労働衛生分野では動作中の関節に生じる負荷を把握し、それを低減させる試みが行われています。

 では、動作中の関節に生じる負荷を軽減させるには何をすれば良いのでしょうか?アシストデバイスを使用する、動作方法を指導する、など様々なアプローチが考えられますが、どのようなアプローチを選択するとしても「動作中の関節に生じている負荷は、どのようなメカニズムで発生しているのか?」を理解することは重要です。メカニズムもわからないものに対して闇雲にアプローチすることは、海図を持たずに航海をするようなものです。うまくいく可能性は低く、仮にうまくいったとしても成功を再現することは難しいでしょう。

 では、具体的にはどのように「動作中の関節に負荷が生じるメカニズム」を明らかにすればよいのでしょうか?筋骨格モデルのフレームワークで考えると、関節負荷を発生させる要因として大きく寄与しているのは筋張力、重力、および床反力などの外部環境から身体に加わる反力と慣性力の4つと推察されます。これら4つの要因が動作中のどのタイミングでどの程度の関節負荷を発生させるかをどのように定量化するか?が次なる問題となります。

AnyForceMomentMeasure2クラス

emsp;筋張力、重力、床反力などの外部環境から身体に加わる反力、慣性力のうち、筋張力以外の因子は身体の各部位の質量・加速度や計測された反力の値が既知であれば、関節負荷に対するそれらの寄与を把握することはそれほど難しくありません。問題は、筋張力の寄与をどのように定量化するかです。AnyBodyではヒトの筋骨格系がかなり緻密にモデル化されていますが、その一方で全身に張り巡らされた筋のロードパスを考えながら関節負荷への寄与を割り出すことは容易ではありません。例えば、骨盤から始まり大腿部を経由して下腿に付着している縫工筋は骨盤・大腿・下腿に力を加えるロードパスを有しており、そのロードパスの状況をモニタリングするための定式化は複雑です。



 ここで便利なのがAnyForceMomemtMeasure2クラスです。AnyForceMomentMeasure2クラスを使用することで複雑な筋のロードパスを経て、任意の座標位置に伝達される力をモニタリングすることができます。任意の座標位置を関節点に指定し、分析したい筋肉をAnyForceMomentMeasure2クラスで参照すれば、指定した筋肉が関節の負荷の発生にどの程度寄与しているかを定量化することができます。

AnyForceMomentMeasure2を用いた股関節圧迫力の分解

 実際にAnyForceMomentMeasure2クラスを活用して歩行動作時の股関節圧迫力に対する筋張力の寄与を同定した事例を紹介します。まずは、股関節の圧迫力の発生に寄与する下記の20筋の情報をAnyForceMomentMeasure2クラスで参照します。



 これらの筋は股関節を跨いで走行しているため、活動することで股関節の圧迫力を増大させます。

 実際に同定された股関節圧迫力に対する各筋の寄与は図2のようになりました。



 時系列データをみるだけでは値の大小を判断しずらいので、1歩行周期で各筋によって生じる股関節圧迫力の累積値を算出し、トップ5を抽出すると表2のようになります。



 ここまで結果がわかると、「動作中の関節に生じる負荷を軽減させるため」にどのようなアプローチを取るべきかをより具体的に考えることができます。例えば、今回の検証結果を見た限りでは、歩行中の股関節の圧迫力の生成には中殿筋が大きく寄与していることがわかります。この知見から「それでは股関節の圧迫力を軽減させるために、中殿筋の活動を抑制するようなアシストデバイスを設計してみよう」という具体的なアプローチが考えられるようになります。

 また、この解析方法はアシストデバイスの効果判定にも利用することができます。「中殿筋の活動がどのくらい抑制され、その結果として股関節の圧迫力がどのくらい軽減したのか?」や「中殿筋以外に過剰な負荷が生じている筋はないか?」といった検討事項について、定量的な指標に基づき、評価することが可能になります。

 AnyBodyユーザーには、今回の事例で使用したAnyScriptを提供します。興味のある方はAnyBodyサポート、または当社までご連絡ください。

参考文献

Voinier D, Neogi T, et al. Using Cumulative Load to Explain How Body Mass Index and Daily Walking Relate to Worsening Knee Cartilage Damage Over Two Years: The MOST Study. Arthritis Rheumatol. 2020 Jun;72(6):957-965.




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