樹脂成形とレオロジー第31回「Crossモデルの実材料への適用例」

樹脂成形とレオロジー第31回「Crossモデルの実材料への適用例」


樹脂成形とレオロジー第31回「Crossモデルの実材料への適用例」





 高分子溶融体は一般的にせん断速度が大きくなると粘度が低下する性質を持ちます。この状況を表すモデル式が色々と提案されています。ここでは、Crossモデルを実材料へ適用した例を示します。


実材料のデータ例

 図1にポリアミド樹脂の粘度測定データ例を示します。横軸はせん断速度 \(\dot{\gamma\ }\) 、縦軸は粘度 \(\eta\) で両対数座標上で示してあります。前回と前々回に使用したポリカーボネート樹脂はこの座標軸上でほぼリニアな関係が得られており、これに合うモデルとして指数則あるいはCarreauモデルを使ってきました。図1では \(\dot{\gamma\ }\) の増加とともに負の勾配が徐々に大きくなる特性を示しています。このような特性値を表現するのに適しているのがCrossモデルになります。




Crossモデルの特性

 Crossモデルを(1)式に示します。ここで、 \(\eta\) :粘度、 \(\eta\)0 :ゼロシェア粘度、 \(\dot{\gamma\ }\) :せん断速度、 \(\tau\)* :係数、 n :構造粘度指数です。

\begin{align*}\eta = \frac{\eta_0}{1 + \left(\frac{\eta_0 \dot{\gamma\ }}{\tau^*}\right)^{1-n}} &\qquad ・・・・・・・(1)\end{align*}

 (1)式では \(\dot{\gamma\ }\) =0で \(\eta\) = \(\eta\)0 となります。また、 n <1のとき \(\dot{\gamma\ }\) の増加とともに \(\eta\) が低下します。一方、 \(\dot{\gamma\ }\) が非常に大きくなると (1)式の分母の1が無視できるのでこのときは指数則モデルの形になります。特性を決める係数は \(\eta\)0n 、 \(\tau\)* の三つですので、二つの係数を固定したきの特性を順に調べていきます。

 図2に \(\eta\)0 =3,000(Pa・s)、 \(\tau\)* =40,000(Pa)に固定して n を変えたときの特性を示します。横軸は \(\dot{\gamma\ }\) 、縦軸は \(\eta\) で両対数座標上で示してあります。 \(\dot{\gamma\ }\) =10s-1付近ではnによらず \(\eta\) が \(\eta\)0 の値とほぼ一致しています。 \(\dot{\gamma\ }\) の増加とともに \(\eta\) が低下します。また、n が小さいほど負の勾配が大きくなります。Crossモデルでは \(\dot{\gamma\ }\) の増加とともに徐々に負の勾配が大きくなる傾向を示しています。



 図3にn =0.5、\(\tau\)* =40,000(Pa)に固定して \(\eta\)0 を変えたときの特性を示します。 \(\eta\)0 の増加にともない、グラフは上方に平行移動します。



 図4に \(\eta\)0 =3,000(Pa・s)、n =0.5に固定して \(\tau\)* を変えたときの特性を示します。\(\tau\)* が小さいほど、小さい \(\dot{\gamma\ }\) で \(\eta\) が低下し始めますのでこのような特性曲線になります。\(\eta\)0n 、 \(\tau\)* の適切な組み合わせにより図1のような特性を表現できます。



実材料への適用

 ここでは3水準の温度で測定したポリアミド樹脂データを使います。温度依存性モデルはアンドレードの式とWLF式の二種類使い、Crossモデルと組み合わせます。アンドレ-ドの式と組み合わせる場合、 n , \(\tau\)* ,a,bが、WLF式と組み合わせる場合はn, \(\tau\)* , \(\eta\)0(Tr),C1,C2 が最適化すべき係数になります。



係数最適化結果

 なめらかな非線形関数での最適解を求めるのに適したGRG(Generalized Reduced Gradient)非線形ソルバー1)を用い、係数を最適化してみました。アンドードの式と組み合わせたときの結果を図6に示します。計算値は測定値とよく一致しています。



 WLF式と組み合わせたときの結果を図7に示します。こちらも計算値は測定値とよく一致しています。n は温度に依存しない係数で、どちらの組み合わせでも同じ値を示しています。なお、係数が一つ多いWLFモデル使用時の方が少し誤差が小さくなりますが全体的にあまり違いはありません。

 Excelソルバーを用いた実材料の係数最適化手順については弊社「樹脂流体解析スキルアップセミナー」で実習できます。




 参考資料
 1)URL:https://ja.helpr.me/9661-what-is-grg-nonlinear-solver



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