樹脂成形とレオロジー第34回「降伏値を持つ擬塑性流体」

樹脂成形とレオロジー第34回「降伏値を持つ擬塑性流体」


樹脂成形とレオロジー第34回「降伏値を持つ擬塑性流体」





 通常の流体はせん断応力が加わるとそれに応じた速度で動き出します。しかし、所定の応力に達するまでは動くことができず、その応力を超えると流動を開始する物質も存在します。練り歯磨き、石鹸、バターなどの身近な材料がこれに該当します。前回はその例としてビンガム塑性流体を説明しました。この流体はせん断速度の増加とともに粘度は飽和値に漸近しますが、擬塑性流体の特性に近づくタイプも存在します。これはHerschel-Bulkleyモデル流体あるいは拡張オストワルド流体とよばれています。ここでは前者の名称にしてその特性を説明します。


Herschel-Bulkleyモデル流体の特性

 構成方程式は(1)~(3)式になります。

\begin{align*}\tau < \tau_0 &\quad \text{で} \quad \dot{\gamma} = 0 \qquad \qquad ・・・・・・・(1)\end{align*} \begin{align*}\tau ≧ \tau_0 \quad \text{で} \quad \tau = \tau_0 + \kappa \dot{\gamma}^n \qquad \qquad ・・・・・・・(2)\end{align*} \begin{align*}\tau &= \eta \dot{\gamma} \qquad \qquad ・・・・・・・(3)\end{align*}   \(\tau\) :せん断応力  \(\tau\)0 :降伏応力  \(\dot{\gamma\ }\) :せん断速度  \(\kappa\) :擬塑性粘度  n :構造粘度指数  \(\eta\):粘度


 ここで、表1のように \(\tau\)0 、 \(\kappa\) 、nを固定して\(\tau\)と \(\dot{\gamma\ }\) の関係を調べてみます。これを図1に示します。\(\tau\)が \(\tau\)0 に達するまでは流動しませんのでせん断速度は生じず \(\dot{\gamma\ }\) =0のままです。\(\tau\) = \(\tau\)0 になると流動を開始し、 \(\dot{\gamma\ }\) の増加とともに\(\tau\) も増加しますが、n が擬塑性の特性である1より小さい値を与えてあるため、勾配は小さくなっていきます。 Herschel-Bulkleyモデル流体とは擬塑性流体に \(\tau\)0 を上乗せした特性になります。






 (2)式と(3)式により次式が導かれます。

\begin{align*}\eta = \frac{\tau_0}{\dot{\gamma}} + \kappa \dot{\gamma}^{n-1} &\qquad ・・・・・・・(4)\end{align*}

 表1と同じ係数を与えたときの(4)式の特性は図2のようになります。 \(\dot{\gamma\ }\) の増加とともに右辺の第一項、二項とも値が小さくなっていきますが、 \(\dot{\gamma\ }\) が小さいと右辺第一項の寄与が支配的で、 \(\dot{\gamma\ }\) が大きくなると右辺第二項の寄与が支配的になります。 その結果、図の青線のような形が得られます。粘度の測定で図2のような青線の形が得られたら、 Herschel-Bulkleyモデル流体とみなすことができます。




Herschel-Bulkleyモデル流体の円管内の流動解析

 いま、同じ半径の一本の円管内を等温の非圧縮性Herschel-Bulkleyモデル流体が満たし、定常層流で管軸方向のみに流動し、管壁ですべりがなく、重力などの体積力が働かないと仮定します。円管流路諸元と流動時に生じる物理量の一部を図3に示します。



 (2)式を書き換えると次式になります。

\begin{align*}\dot{\gamma} = \left( \frac{\tau}{\kappa} – \frac{\tau_0}{\kappa} \right)^{\frac{1}{n}}&\qquad ・・・・・・・(5)\end{align*}

 図3の流動状態での運動方程式から次式が得られます。

\begin{align*} \dot{\gamma} &= \frac{\partial v_z}{\partial r} \qquad ・・・・・・・(6) \\ \tau &= \frac{r \Delta P}{2L} \qquad ・・・・・・・(7) \end{align*}

 (6),(7)式を(5)式に代入すると次式になります。

\begin{align*}\frac{\partial v_z}{\partial r} = \left( \frac{r \, \Delta P}{2 \kappa L} – \frac{\tau_0}{\kappa} \right)^{\frac{1}{n}}&\qquad ・・・・・・・(8)\end{align*}

 せん断速度が0になる位置のrr*とすると上式で左辺を0とおいて次式が得られます。

\begin{align*}r^* &= \frac{2 \tau_0 L}{\Delta P} &\qquad ・・・・・・・(9)\end{align*}

r*より内側の領域では速度は一定になり、外側の領域では速度分布を生じます。

 (8)式を境界条件(r =Rvz =0)を用いて積分すると次の速度式が得られます。

\begin{align*}v_z = \frac{2n\kappa L}{(1+n)\Delta P} \left[ \left( \frac{\Delta P}{2\kappa L} r – \frac{\tau_0}{\kappa} \right)^{\frac{n+1}{n}} – \left( \frac{\Delta P}{2\kappa L} R – \frac{\tau_0}{\kappa} \right)^{\frac{n+1}{n}} \right] &\qquad ・・・・・・・(10)\end{align*}

 この式はr*rRの領域に適用されます。rr*の領域では次の一定流速の式になります。

\begin{align*}v_z = \frac{2n\kappa L}{(1+n)\Delta P} \left[ \left( \frac{\Delta P}{2\kappa L} r^* – \frac{\tau_0}{\kappa} \right)^{\frac{n+1}{n}} – \left( \frac{\Delta P}{2\kappa L} R – \frac{\tau_0}{\kappa} \right)^{\frac{n+1}{n}} \right] &\qquad ・・・・・・・(11)\end{align*}

 ここで表2のように値を与えて速度分布の計算を行いました。



 図4にHerschel-Bulkleyモデル流体の速度分布の例を示します。横軸は管中心からの半径方向距離r、縦軸は速度vzです。圧力勾配と逆方向に流動するため(11)式の速度は負号が付きますが、ここでは正の値に変えています。管中心から2mmの距離のところがr*であり、それより内側が速度一定の栓流(Plug flow)領域、外側がせん断流(Shear flow)領域になっています。ビンガム塑性流体と比べ、せん断流領域での速度プロファイルを細かく調整できます。降伏値を持つ材料はこのような特異な挙動をします。この流体の係数最適化手法については弊社「樹脂流体解析スキルアップセミナー」で実習できます。





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