「衝撃工学の基礎」 概要
爆発・衝突などの衝撃的な荷重を受ける構造物の衝撃問題をその発生原因で区分すると、自然現象によるものと人為的によるものに大別されます。自然現象に起因する衝撃作用が生じる例としては、崖崩れ・斜面からの落石の衝突、土石流、強烈な地震動による建物の衝撃的崩壊、暴風・津波等による飛散物や浮遊物の衝突などが挙げられます。また、人為的に発生する衝撃問題としては、自動車・船舶・車両等の衝突、航空機の墜落、高所からの落下物の衝突、機械・工作物の転倒、ガス・火薬類の爆発、建造物の爆破解体などの衝撃問題が挙げられます。これらの多くは人命に係わる重大な災害・事故につながるものですが、衝撃問題は現象が多種多様でありしかも複雑なため、理解しにくいのが実状です。
このような状況の下、1989年(平成元年)10月に、土木学会構造工学委員会の中に「衝撃問題研究小委員会」が設置され、また、建築学会では1997年(平成9年)5月に「地震による衝撃的破壊現象小委員会」が設立されました。衝撃問題を新しい課題として取り上げることにより、両小委員会ではそれぞれ独立に調査・研究活動を続けてきました。一方、他の理工学分野でも、軍事分野以外に、自動車・船舶・車両等の衝突、原子力発電関連施設への航空機の墜落、衝撃を応用した塑性加工、人工衛星などの超高速衝撃、携帯用ハイテク機器類の落下、人・物の転倒による衝撃問題など、衝撃現象の解明と衝撃性能の向上に関する研究や技術開発が盛んに行われてきています。
しかし、多くの機関で衝撃問題に関わる調査・研究および開発が行われるようになってきているにもかかわらず、現段階では瞬時に強烈な破壊力を生ずる衝撃現象の有効な評価方法を確立するまでには至らず、いまも研究途上にあります。その理由は、衝撃力を定量的に評価し難いこと、衝撃力を受ける材料・部材の挙動が容易に解明できないこと、などが挙げられます。しかし、科学技術の著しい進歩や研究者・技術者の努力によって、実験法や解析法が改良され、衝撃問題における衝撃性能評価の技術は確実に向上してきています。
そこで、本講座は、衝撃問題に関わる技術者・初学者にわかりやすく衝撃工学の基礎を解説するものであり、手軽にこの分野を勉強する際の参考となるものとして開設しいたしました。その内容は基礎的ではありますが、「衝撃」というものを「概念的ではなく、より工学的」に理解できるよう工夫しています。
本講座(第1日)では、衝撃問題のうち物体の衝突問題を中心として、衝撃基礎理論と例題、1質点系モデルの衝撃解析法とエネルギー法による等損傷曲線の概念を説明し、本講座(第2日)では、応力波の伝播・反射・透過の問題や波動方程式の解法、衝撃問題における数値解析方法、陰解法と陽解法の比較、などの内容を分かり易い例題を交えて解説しています。本講座のテキストは、防衛大学校大野友則教授の講義ノート、土木学会「衝撃問題研究小委員会」活動、および衝撃解析ソフトLS-DYNAセミナーの資料他を引用、あるいは参照して作成しております。
【プログラム目次】
[第1日]
第1章 衝撃問題の特徴
1.1 日常生活にある衝撃の例
1.2 衝撃・衝撃力とは
1.3 衝突により発生する衝撃力の特性とモデル化の
具体例
1.4 衝撃問題
1.5 衝撃実験と計測
1.5.1 衝撃実験の目的と区分
1.5.2 衝撃実験の対象と相似則
第2章 衝撃基礎理論と応用
2.1 力学の基礎的事項
2.2 ニュートンの法則
2.3 物理学における衝突問題
2.3.1 運動量と力積および入力エネルギー
2.3.2 衝突問題における理論解の例
2.3.3 衝突問題における基礎理論での留意事項
第3章 質点系モデルによる衝撃応答解析
3.1 衝撃モデルと衝撃応答
3.1.1 剛体床への物体の衝突
3.1.2 弾性床への物体の衝突
3.1.3 2つの弾性体の衝突
3.2 衝撃力・インパルスに対する振動応答
3.2.1 衝撃力による1自由度1質点系モデルの振動
3.2.2 質点系モデルの振動方程式の解法
3.2.3 半sin波のインパルスに対する振動応答
3.2.4 矩形インパルスに対する振動応答
3.2.5 三角形インパルスに対する振動応答
[第2日]
第4章 振動と波動および応力波
4.1 振動と波動
4.2 弾性波と塑性波
4.3 ホプキンソン圧力棒 (一次元波動理論の応用例)
4.4 応力波に関する分り易い例題
4.4.1 応力波のパラメータ
4.4.2 応力波の反射と透過
4.4.3 X、T計算図表
4.4.4 塑性波
4.4.5 塑性波の反射と透過
第5章 衝撃応答解析
5.1 衝撃解析技術の発展と解析ソフトの諸機能
5.1.1 衝撃解析技術の概要
5.1.2 衝撃解析コードの諸機能
5.2 衝撃問題の数値解析手法
(1) 差分による微分の近似
(2) 線形加速度法
(3) ニューマークのβ法
(4) ウィルソンのθ法
(5) 増分型の運動方程式の解法
5.3 数値解析法の応用例
5.4 陰解法とLS-DYNAにおける陽解法の比較
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